先人たちの底力 知恵泉 江戸川乱歩(後編)~新たなジャンルを切り開くには?~ 戦争の時代、推理小説は発禁となり…



出典:『先人たちの底力 知恵泉▽江戸川乱歩(後編)~新たなジャンルを切り開くには?~』の番組情報(EPGから引用)


先人たちの底力 知恵泉▽江戸川乱歩(後編)~新たなジャンルを切り開くには?~[解][字]


少年の頃からの推理小説オタクで、その書き手となり、評論、編集者としても活躍。ミステリー小説を一大ジャンルに育て上げた功労者、江戸川乱歩の知恵を2回にわたって探る


詳細情報

番組内容

乱歩は単に作家として仕事を続けただけではない。戦争の時代、推理小説は発禁となり、絶えたかに見えた。しかし戦後、私財で乱歩賞を設立。推理小説誌の編集長となり、曽野綾子、吉行淳之介など推理作家以外にも推理小説を書いてもらう。さらに、乱歩のことを「初期で死んだら天才だった」と、冷笑し批判した松本清張に連載を依頼した。一体なぜ?そこには異なる者への寛容さをもち続けた乱歩ならではの仲間を増やす知恵があった。

出演者

【出演】いとうせいこう,高見侑里,金城学院大学教授…小松史生子,【司会】新井秀和



『先人たちの底力 知恵泉▽江戸川乱歩(後編)~新たなジャンルを切り開くには?~』のテキストマイニング結果(ワードクラウド&キーワード出現数ベスト20)

先人たちの底力 知恵泉 江戸川乱歩(後編)~新たなジャンルを
  1. 乱歩
  2. 清張
  3. 明智小五郎
  4. 読者
  5. ジャンル
  6. ミステリー
  7. 自分
  8. 小林少年
  9. 世界
  10. 日本
  11. 最初
  12. 作家
  13. 昭和
  14. 松本清張
  15. 探偵小説
  16. キャラクター
  17. 探偵
  18. 江戸川乱歩
  19. 作品
  20. 登場


『先人たちの底力 知恵泉▽江戸川乱歩(後編)~新たなジャンルを切り開くには?~』の解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)


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あなたの前に道はない。

だったら 切り開きましょう。

江戸川乱歩が教えてくれます。

さまざまな分野の本が並ぶ書店で

老若男女を問わず幅広いファンを持つ
ジャンルがあります。

ミステリーです。

事件や犯罪に潜む謎や
危険を乗り越え犯人に迫る

ハラハラドキドキの展開は
多くの読者を虜にし

映画やドラマの原作となるなど
今や 出版業界のドル箱ジャンル。

ところが このミステリー

最初から 万人に
認められていたわけではありません。

エドガー・アラン・ポーや
コナン・ドイルの翻訳本が

日本に紹介されて間もない頃

大学生だった江戸川乱歩は
こう言っています。

というのも
文芸小説や和歌 俳句などと比べて

ミステリーは
低俗なものと考えられていたのです。

ところが 乱歩は

ミステリーには 世代を超えて
夢中にさせる魅力があると信じ

自らも 執筆を開始。

デビュー作「二銭銅貨」で

「南無阿弥陀仏」と
点字を組み合わせたトリックで

大人たちをうならせ

更に 明智小五郎と小林少年が
怪人二十面相と戦う

「少年探偵団シリーズ」は

発売を楽しみにした子どもが
本屋に並ぶほど 大人気になります。

世代に関係なく ミステリーファンを
広げることに成功した乱歩は

日本推理作家協会の前身となる

探偵作家クラブを設立し

初代会長に就任。

自ら資金を出し制定した江戸川乱歩賞は
ミステリー作家の登竜門と呼ばれ

西村京太郎や東野圭吾 桐野夏生など
ベストセラー作家が次々に誕生。

江戸川乱歩の存在なくして
日本のミステリー界は語れません。

一体 どのようにして 乱歩は
低俗と相手にされなかったミステリーを

人気のジャンルに
育てることができたのでしょうか?

今回 江戸川乱歩の知恵を読み解くのは

作家でマルチクリエーターの
いとうせいこうさん。

東日本大震災を舞台にした
「想像ラジオ」は

被災者の共感を呼び
芥川賞候補にもなりました。

実は いとうさん
若い時には 芸人としてステージに立ち

テレビの司会者としても活躍するなど

マルチな才能の持ち主として

さまざまな業界に進出。

そんな中 日本で先駆者といわれている
ジャンルがあります。

それが ヒップホップ。

ラップには向いていないともいわれた
日本語を

軽快なリズムに乗せ
韻を踏んだ歌詞で表現。

日本語ラップのパイオニアと
呼ばれました。

日本に ヒップホップというジャンルを
しらしめた いとうせいこうさん。

ミステリーを日本に定着させた
江戸川乱歩の知恵を

どう読み解くのでしょうか。

店長 本当にするんですか?

やりますよ 練習 練習。
は… はい!

い… いいですか? いとうさんたちが
店にやって来ました。

扉が ガラガラッと開いた
このタイミングで 電気を消す!

消す。 はい。
すると…

ハッハッハッハッ 遅かったな 明智君。
私が 怪人二十面相だ! どうだ!

店長。      うん?
マスク忘れてますよ。

あっ! あ~ マスク。
あ~ そうだ そうだ。

ちょっと電気つけてもらっていいですか?
カウンター カウンター カウンター。

カウンターにね 私ね
置きっぱなしだったんですよ これ。

もう…。
これですよね。 これがないと

気分が乗らないですよね。
ここは 整えた上で…。

大丈夫かな? こんな感じでマスク。
いいですかね?                  うん。

あ… あれ? 何か 足音聞こえません?
あっ 来ますか?

うん 近づいてきたかもしれない。
はい はい。

すいません。
ちょっと電車が遅れてしまって。

全然問題ない。 高見さん 先行ってるって
言ってましたからね。

そうですか。
もう飲んでるんじゃ…。

あら?
あれ?

ハッハッハッハッハッ! 遅かったな!
アテチ! アイタタタタ…。

「アテチ」て言ったな あの人。
高見さん。 電気つけて 電気。

電気つけますか? はい。
何やってんだ?

あっ イタ!
はだしで~!  すごい格好…。

すいません。
いやいや 怪人二十面相ごっこ。

警察 呼ぼう。 そうですね。
ここ 私の店ですから。

不審者 不審者ですね。 不審者です。
え~っ!?

明らかな不審者だよ。
だから 「やめましょう」って言ったのに。

まっ とりあえず 皆さん
お席に着いて頂いて。

着いてるよ。 バカバカしくて。

すいません。 おつきあい頂いちゃって。

いや~ ありがとうございました もう。
お疲れさまでした。

やりたいことやったんでしょ? 今。
そうですね。 乱歩のように

ちょっと好きなことをやってみました。
あ~ それはいい それはいい。

ということで 気を取り直してですね
早速 今日のメニューなんですけれども

今週は こちらです。

おいしそうじゃないですか。
そうですか?

うん おいしそうですよ。
これもね よ~く聞いて下さいね。

「らんぷにくの みすてり…」。

「きく」は入ってないでしょ?
いえ いえ…。

確か 先週も
そこ 「きく」のところ おかしかったよ。

そして これ…。

これも 一生懸命考えられたんでしょうね。
苦しいな。

乱歩のように逃げようかな。

確かに つらくなったら
逃げればいいんですよ。

先週はね 乱歩が 小説家になって
活躍するところでしたけれども

今回は 新たなジャンルを切り開く
乱歩の知恵を

味わっていこうと思うんですよ。
なるほど。

昭和31年 子どもたちが夢中になった
ラジオドラマがあります。

主題歌が有名な「少年探偵団」です。

♬「ぼ・ぼ・ぼくらは少年探偵団」

子どもたちの間では 探偵ごっこが大流行。

名探偵 明智小五郎や探偵団のリーダー
小林少年は もちろん

敵である 怪人二十面相までもが
人気のキャラクターとなります。

そして 彼らが登場する
原作の「少年探偵団シリーズ」を読み

江戸川乱歩の探偵小説のファンになる
子どもたちも たくさんいました。

こうして 人気キャラクターで ミステリー
ファンを増やすことに成功した乱歩。

実は そこには 現在のビジネスにも通じる
画期的なアイデアがあったのです。

大正14年に乱歩が発表した
「D坂の殺人事件」。

この小説は 名探偵 明智小五郎が
初めて登場した作品です。

この時 乱歩は 明智小五郎を
このように描いています。

「木綿の着物に
よれよれの兵児帯をしめ

時に 長く モジャモジャと
もつれ合った髪を

かき回す癖がある。

定職につかず
四畳半の下宿は 本であふれ

人間研究を趣味にしている」。

今なら
ニートと呼ばれるような人物です。

こうした明智のような若者は
高等遊民と呼ばれ

新聞などで 社会問題として
取り上げられるほどでした。

実は 乱歩自身が

大学卒業後 作家になるまでの8年間に
15回近く職を変え

暇さえあれば思索にふけるという
遊民生活の経験者でした。

この世間と折り合えない
自分のような明智小五郎を

乱歩は 1作だけのキャラクターで
終わらせるつもりでしたが…

こうして職業作家となった乱歩は
新しい読者の獲得を目指し

遊民として描いた明智小五郎を

人々が憧れるキャラクターに
変えることを思いつきます。

そして 大正15年の「一寸法師」では

明智小五郎が上海から帰ってきたところに
事件の依頼が来るという設定で

明智小五郎を モダンでスタイリッシュな
西洋紳士に変貌させます。

というのも そのころ 銀座では

洋服を着た モダンボーイ モダンガール
といわれる人たちが かっ歩し

庶民の憧れになっていたのです。

更に 乱歩は それまでの探偵小説では
あまり重視されていない人間味を

明智小五郎に持たせようと
タブーに挑戦します。

それが 探偵の恋愛です。

というのも 探偵は
沈着冷静に犯罪者に立ち向かうもので

ラブロマンスは似合わないと
考えられていたからなんです。

ところが 乱歩は 「魔術師」という作品で
40歳を過ぎた明智小五郎が

女学校を出たばかりの富豪の令嬢に
恋心を抱く場面を描き

「吸血鬼」では
18歳の助手 文代と事件解決後に結婚。

そして 50歳になった明智小五郎は
頭髪が半分白くなり

こめかみから頬に いくつも
褐色のシミがあるというふうに

年相応の経年変化も あえて描きました。

乱歩は こう言っています。

この乱歩の思いが

明智小五郎を 日本を代表する名探偵
といわれるキャラクターに育て

更なる読者を獲得。

その上
明智小五郎の成功から生まれた脇役が

探偵小説ファンを
子どもたちに広げることになったのです。

それが 明智の助手で
少年探偵団のリーダー 小林少年です。

最初に小林少年が登場したのは
明智小五郎が結婚する「吸血鬼」でした。

ただし この時は
ほかにもいる明智の助手の一人で

少年が犯人追跡に加わり失敗することで

スリルを高めるスパイス的な役割でした。

乱歩が 小林少年に スポットを当てる
出来事が起こります。

小学校高学年から中学生を対象にした雑誌
「少年倶楽部」から

連載を依頼されたのです。

そこで思いついたのが「怪人二十面相」。

変装の名人で 厳重な警戒をもろともせず
宝石や美術品を盗む

神出鬼没の怪人と
明智小五郎が戦う話です。

少年読者のために
子どもを主役にと考えた乱歩は

主人公を誰にするかで悩みます。

そして思いついたのが
かつて脇役で登場させた小林少年でした。

高価な絵画を盗もうとする
二十面相に立ち向かう小林少年。

毎回ハラハラする展開に
固唾をのんでいた子どもたちは

明智小五郎が登場し 小林少年と一緒に

怪人二十面相の犯行を阻止すると大興奮。

連載雑誌は飛ぶように売れました。

小林少年の活躍を描く
「少年探偵団シリーズ」は20作を超え

「子どもたちから こんなに たくさんの
ファンレターが来て驚いた」と

乱歩に言わせるほどの大ヒット。

ラジオやテレビドラマにもなり
子どもたちは

その主題歌を口ずさみ
探偵ごっこが大流行。

乱歩が 小林少年を主人公にした
スピンオフで

二匹目のどじょうを狙い
見事に成功させたことで

探偵小説ファンは
子どもたちにまで広がっていったのです。

♬「ぼくらは少年探偵団」

あの 本当にキャラが 最初は そこまで
確立されてない人物が

どんどん こう 脚光を浴びて
で その人物が主人公になって

またシリーズ化していく。

どんどん こう 可能性が
広がっていくなっていうのが

すごく面白くて。

まあ ほかの作家が
ジュブナイルっていうかね 児童文学

少年を探偵にした作品を
書いてるんですけども

やっぱり そこにはですね
突出した少年はいるんですが

その先生っていうキャラクターは

あんまりいない。
いないんだ。             うんうん…。

で そこは 乱歩 うまかったですね。

大人向けの読み物で出てきた明智を
児童ものにも登場させて

先生という役割を振ったわけですよ。

うん。 で そこで
すんなり世界観がですね

こう まとまってくわけなんですよね。

なるほど なるほど。
また そのキャラクター

ほかの作品にも出てくる
スピンオフ感というのが

また読者も面白いですよね。
うん そうですよね。

ほかの作品も読んでみようと
思わせますからね。 はい。

ある程度 まず…

はい。
でも いとうさん どうなんですか?

スピンオフってね こう あの 今でも
商売の方法としてありますけれども。

もう古代から これは やってる
人間がやってることで。

例えば 近世で言ったら
歌舞伎とかね いうのは

最初に 世界っていうのを決めるんですよ。

この世界というのは 室町時代とか
じゃあ 奈良時代の誰々にしましょう。

そこで あだ討ちものにしましょうか

恋愛ものにしましょうかというのは
世界なんですよ。

はいはい。
世界が決まると

筋書きは ある程度
どうでもいいってとこあるんですよね。

「ハリー・ポッター」もそうでしょ だって。

ああいう 一回なると
もう やっぱり その世界行きたい

魔法の世界に行きたいってなるのは
世界が決まるからですよね。

(一同)はあ~。
確かに 世界が分かってると

入り込みやすいっていうか。
何か 定着… 安定感と斬新さっていうか

何か そういうのありますよね。
ねえ~。

一回 その世界が浸透して
ちょっとでもヒットすれば

これは もう その上に
新たなキャラクターを乗っけていくのが

仕事に 今度はなってきますよね。

じゃあ もう最初から
ただの一人の少年ではなく

ゆくゆくは こう 何か
キャラ付けをしようという思いが

最初から乱歩にはあったんですか?
多分あったと思うんですよね。

「吸血鬼」に やっぱり ちょっと
唐突に出てきますので うん。

これは やっぱり コマの1つとして
保存しておくね

後々っていう考えはあったと思いますね。

へえ~ じゃあ もう
読者としては この作品の中に

登場人物が現れると
あっ この人 もしかして

後に 何か キーパーソンになるのかなとか
また興味が湧きますよね。

オタクって やっぱり
そういう読み方が好きなわけですよ。

そうね! そうなの!
(笑い声)

でも やっぱり それでね
明智小五郎っていう探偵が誕生して

もう その みんなが 探偵 明智小五郎
っていうのを こう 思うっていう

その強いキャラクター性を
作れるっていうのは

作家冥利に尽きますよね。
そうですね。

計算では生みようがないの これは。

じゃあ
イケメンならいいんでしょうとか

かっこよければいいんでしょう
って書いても

好きにはなってもらえないんですよ。

何か ちょっと 失敗でも書いたら
それで人気が出る場合もあるし

これは 全く読めない。

だから共作なんですね。

だから その時に作家は
孤独じゃなくなるんですよ。 初めて。

キャラクターという媒介があるから

あっ 読者がいるんだなってことが
ビンビン感じられるし

読者は このキャラクターを
どう動かしてくれるかによって

自分たちにリンクしてくれてる
作家ってものを感じることができると。

だから やっぱり
小林少年を動かしてる時の乱歩さんは

幸せだったんだろうなと思いますね。

う~ん そういう気持ちなんですね。

そうすると改めて ここの知恵は

「スピンオフで二匹目のどじょうを狙え」
だったんですけど

「二匹目のどじょう」ってね 時には

それを失敗するともいわれる
例えじゃないですか。

これを成功させる秘けつって
皆さん どう思います?

そこな~。 だって ねっ?

ずっと同じことやってろ
っていうようなことに

なっちゃうじゃないですか。
一つ 間違うと。

で 実際 これ 飽きられる可能性も。

同じことやってる安心感の裏側には
ものすごい不安があって

1個でも「もう終わった」って言われたら
全部が終わりなんですよね。

そうすると やっぱり 新しい血は
入れざるをえないので 僕は…

やっぱり ちょっとずつ世界が少し違う。

同じ登場人物なんだけど…
なので 新しく見えるっていうふうに

やっぱり 技術的にやらないと
怖いですよ 客は。

実はね 「少年探偵団シリーズ」も
実は それがあって おっしゃるとおりで。

最初は その小林君を中心とした
少年探偵団が活躍するんですが

あの 下部組織ができるんですよ。

あ~!
チンピラ別働隊っていうね。

で これ ちょっと話が
ひどい話でもあって

少年探偵団のメンバーたちって

結構 上流家庭の子息が多いんですね。

で そうするとね 門限があるんですよ。
(笑い声)

何時には もう
おうちにいなきゃいけないっていうね。

それは おかしい。
でも 犯罪事件って

大体 夜 起きるじゃないですか。
そうすると困っちゃうので

下部組織ということで あの…。
(笑い声)

ちょっと夜も出歩ける子どもたちの
チームを作って。

その子たちの方が 小さいのにみたいなね。
そうそう…。

で その子たちの中に
ポケット小僧っていうね

ちょっと なりは ちっちゃいんだけど
積極的な機転の利く子が出てきて

この子がね シリーズ重ねていくと

小林君よりも人気が出てくるんです。

はあ~ 食った? 食った? これは面白い。

で その小林君は
ちょっと兄貴分的な扱いになってきて

ポケット小僧が活躍するっていうね。
ちゃんと それを生んだから

息が長いヒットに
なっていったんですよね 世界として。

そうですね。 はい。

まあ そしてね 乱歩は
脇役だった小林少年を主役にした

「少年探偵団シリーズ」でね

新たなファンの開拓に
成功したわけですけれども

実は 乱歩は このあと
ミステリーというものをね

日本に定着させるために
こんなこともやっているということで

次の知恵を ちょっと見て頂きましょうか。

日本のミステリー界に
二大巨星といわれる作家がいます。

江戸川乱歩と松本清張です。

乱歩が 探偵が事件を解決する

本格推理小説で

日本人に ミステリーの
面白さを教えた

日本ミステリー界の
草分けだとするならば

清張は 社会性のある題材を
リアルに描く社会派推理小説で

ミステリーファンを
サラリーマンや主婦に広げた

ミステリー界 中興の祖とも言うべき
人物です。

清張は 乱歩について…

…と語っています。

その一方で 乱歩や横溝正史が
築き上げてきた本格推理小説を

「お化け屋敷」と批判し

「乱歩は初期の短編だけ書いて
死んでいたら

とんでもない天才がいたということに
なっていた」と

恐れもなく公言していました。

日本推理作家協会の前身となる
探偵作家クラブが発足したのは

終戦から2年後の昭和22年のことでした。

乱歩を慕う横溝正史などから

探偵小説の進歩向上を図る
クラブを作ろうという

話が上がったことが
きっかけでした。

初代会長に就任した乱歩には
大きな夢がありました。

それは…

昭和22年の雑誌で 乱歩は
庶民の遊びにすぎなかった俳句を

芸術の域に高めた松尾芭蕉を
例えに挙げて こう言っています。

乱歩の思いをかなえるべく
協会設立の翌年に

探偵作家クラブ賞が制定されます。

現在 日本推理作家協会賞と
名前を変えた この賞は

その年に発表された
最高のミステリー小説に与えられる

ミステリー作家 憧れの賞です。

興味深いのは 受賞作が
横溝正史の「本陣殺人事件」や

坂口安吾の「不連続殺人事件」のような
本格推理小説だけでなく

小松左京のSF「日本沈没」や

星 新一のショートショートの作品にも
与えられていることです。

というのも 乱歩の願いは

ミステリーを芸術に高めてくれる
作家の登場であって

本格推理小説という狭いジャンルに

こだわるべきではないと
思っていたからです。

昭和26年 乱歩の前に
その候補となる人物が登場します。

松本清張です。

清張は デビュー作「西郷札」で

直木賞候補となり

翌年の「或る『小倉日記』伝」で

芥川賞を受賞。

「張込み」でミステリーに進出した清張は

昭和32年 推理小説マニアを
うならせる作品を発表します。

それが「点と線」です。

役人と情婦の心中事件が

時刻表をトリックに使った
殺人だったというストーリーを

リアリティーのある動機と
説得力のあるアリバイ崩しで描き

それまでの探偵小説とは違うと
話題になります。

「乱歩と清張」という評論を書いた

文芸評論家の郷原 宏さんに
話を聞きました。

清張というのは
昭和30年ぐらいから

ミステリーを書き始めるわけですが…

(郷原)動機は どうでもよくって。

どういう…

動機が軽視されてた。

だけども 清張は…

(郷原)同時に その…

(郷原)彼自身の言葉で言うと
それまでの探偵小説は

掛け小屋のお化け屋敷だっていう

全然 その 架空のお話になってて

しかも その 非常に人を驚かすようなね
話ばっかりじゃないかっていう。

それじゃあ 戦後の…

(郷原)清張は そういう考えに至って…

清張が生み出した推理小説は
社会派ミステリーと呼ばれ

サラリーマンや主婦など
新しい読者を獲得。

乱歩や横溝正史などが書いてきた
探偵小説は衰退していきます。

こうした風潮の中 売り上げが低迷する
探偵小説雑誌「宝石」から

乱歩に編集長の依頼が来ます。

それを引き受けた乱歩が
執筆を依頼したのが

全く自分とは考えが異なる
松本清張でした。

これには清張も驚きますが
乱歩からの依頼を快諾。

敵陣に乗り込む気持ちで書き始めたのが
「ゼロの焦点」です。

ところが 清張は
連載5回目で原稿が半分しか書けず

6回目は休載。

その時 清張が乱歩に

「本格推理小説の読者にも
満足してもらいたいと

この ふたつきほど
それを考えているのだが

いろいろ念頭にある筋の運び方のうち

どれにするか決心がつかなかった」と
謝ったところ

乱歩は 「殊更 本格的にと
考えられる必要はない。

あなたのサスペンスに富んだ
リアルな作風を

そのまま出して頂きたい」と
清張を励まし

その一方で 読者には

「松本さんが全力を傾けているための
渋滞だから

了承してほしい」と呼びかけています。

昭和30年代の初めに 松本清張が現れて

「眼の壁」「点と線」を発表して

社会派ミステリーブームを
呼び起こすわけなんだけれども

それを見て…

乱歩の強いバックアップのもとに
完成した…

主人公は サラリーマンと主婦という

まさに読者層と重なります。

内容は 結婚したばかりの…

それは…

こうして 清張によって市民権を得た
ミステリー。

その人気を更に高めるため

乱歩は 「宝石」に掲載する
推理小説の執筆依頼に走り回ります。

そして 探偵小説作家だけでなく

曽野綾子 石原慎太郎

吉行淳之介などの
文壇作家からの原稿も獲得。

ミステリー小説の可能性を
広げたのでした。

昭和35年
ミステリー界に悲報が届きます。

乱歩が体調を崩し
「宝石」の編集長を辞任したのです。

以後 売り上げが低迷するようになった
「宝石」は

ついに 昭和39年 廃刊。

その翌年の昭和40年7月28日

乱歩が脳出血のため死去します。

70年の生涯でした。

葬儀で弔辞を読み上げたのは
松本清張です。

清張は こう言っています。

乱歩の存在なくして
日本のミステリー界はなかったと

清張が世に宣言した瞬間でした。

松本清張は 最初 乱歩に対して
結構厳しいことを言ってましたけど…。

そうですね。
まあ 今 郷原先生も

動機の問題というのを
おっしゃっていて

乱歩や横溝だって
犯罪者の動機は書いてるんですけども

それが…

分かりやすい言葉で言うと。
で 松本清張は

実はね 「平凡」っていう言葉を
とても大事にした作家なんですよね。

平凡な人間が事件に巻き込まれる。

そういう巻き込まれ型が
松本清張は 割と好きなんですよ。

その平凡な人間って
我々じゃないですか。

戦後を生きるサラリーマンであったり
主婦であったり

そういう常識的な人間が
ある日 突然 事件に巻き込まれた時に

何が起きるのかっていうのが
サスペンスだったんですね。

でも 乱歩や横溝の犯罪者像というのは
そうじゃなくて

探偵にしろ犯罪者にしろ
エキセントリックなんですよ。

異常心理なんですよ。
あんな面白いことが…。

「そんな死体あるか?」みたいなのが
出てくる。

そこで「芸術」っていう言葉を
どう捉えるかなんですけども

日本の近代文学って 実はね
平凡なものを描く小説っていうのが

芸術 純文学であるっていう…
あるんですよ。

坪内逍遥の「小説神髄」なんか
まさに それ。

そこに 松本清張は
かえったわけなんですよね。

探偵小説を戻したわけ。

だから そこに 探偵小説が芸術として
高められたっていうような論理が

成り立っちゃうっていう背景が
出てくるんですよ。

いや~ 先生。 芭蕉の話ありましたけど

乱歩自身が芭蕉になろうという気持ちは
なかったんですかね?

芭蕉というのは
何を象徴してるかっていうと

松尾芭蕉っていうのは
それまでの月並み俳句ですよね。

花鳥風月ばっかり詠んでた
様式美に対抗して

縁側に ウグイスの糞があるとか
道端のアシビを馬が食べちゃうとか

庶民的な風景を俳諧の世界に
持ち込んだわけですよ。

ある意味 それって
平凡な風景を芸術の世界に持ち込んだ。

価値転換ですよね。
松本清張は同じことをしたわけなんです。

もう最初から。

そういう感性を持っていたので…。

確かに 乱歩が描く登場人物って…。
小説は 全部そうですもんね。

人とは違う趣味嗜好を持つ人が
多かったですもんね。

興味がなかったんですね。

いや でも それは
彼の矜持でもあったでしょうね。

そんな みみっちいことを
俺は書かない。

認めるけど 書かない。

自分を ちょっと否定するような清張を
芭蕉って言う

乱歩の気持ちっていうのは
どうだったんですかね?

正直 複雑だったと思いますよ。
そうね。       (笑い声)

手放しには褒められないですよね
本当はね。

あるいは すごく生意気なこと言ってくる
若いやつがいて 腹が立つ。

でも もう一方で 編集長っていう

ああいうエディターとしての乱歩としては
「今 このジャンルを こうしておくと

後々 すごく全体がよくなるぞ」というのが
見えてるわけですよね きっと。

だから お風呂の中では
パンチは繰り出してたかもね。

「くそ~っ!」って。 でも 上がったら

ニコニコせざるをえないですよね
やっぱ これは 編集長としては。

ミステリー界全体を…。
考えざるをえないもん。

それは 自分を益することにも
なるわけですからね。

だって そうしたかったんだもん。
「ミステリーって

すばらしいジャンルなんだよ」って
言いたかったんだから

もう一方の 確実に
それが言えるやつが出てきたら 自分…。

しかも… しかもっていうか
唯一 やっぱり 我が出たのは

自分の雑誌で書かせた
っていうことですよね。

だって それは ある意味
マウンティングだからね。 清張に対する。

「俺んとこで書け」って
言ったわけだから。

ここは なかなか微妙な
人間関係の面白いところでもあると。

確かに。
懐が大きいんだよと。

そういうふうなところを見せないと
ジャンルのオピニオンリーダーとしては

ちょっと 何て言うかな…
格が落ちてしまうわけ。

知恵がね 「異なる考えを持つ人こそ

大切にしろ」
ということだったんですけれども

新しい登場人物をね
どう受け入れていくのか…。

高見さん どうするんですか?
潰すんですか? やっぱり。

もうねえ あの ちょっと
出る杭は… じゃない。

全然 全然 私は もう
そこは やっぱり認めますね。

自分にはないものを
持っているわけですから

そこは認めて
自分は自分で高めていきたいなって

思うタイプですかね。
でも お風呂の中で…。

まあ ちょっと…
いやいや しないです。

いとうさん どうですか?     はい。
ご自身は。

何だろう 自分じゃないもので…

なぜかっていうと…

絶対 自分が駄目になっちゃうんです
そういう人は。

だったら 逆に
「くそ~ あいつの持ってるいいもんも

全部 俺も書きたいな」って思わないと
それは大きくもなれないし

マーケットも広がらないですよね。

だから それは やっぱり
そうせざるをえないですよね。

認めざるをえない。
もちろん 悔しいですよ。

嫌ですよ。 嫌ですけど それはないとね。
なるほどね。

先生は どうですか?
乱歩が そういうことができた

一番の理由っていうのは…。

なるほど… なるほど。 そうだ そうだ。

読者あってのジャンルなんですね。

それって ほかの文学と
ちょっと違っていて

やっぱり 読者に向かって
謎を仕掛けるっていうことは

作家は書く時に
必ず読者を視野に入れてるわけ。

読者も探偵小説 読む時は 必ず作家と
ダイレクトに魂の交換がないと

読めないわけですよね。 だから
書くだけじゃないんですよ 探偵小説って。

読者としても存在感があるので

そこのところで
救われたんじゃないですかね 乱歩はね。

自分も 一読者になれる。
なれた。

確かに そうですね。 読者のいる分野
とても強い分野なんですね。   はい。

さあ 今日は 江戸川乱歩がね

新たなジャンルを切り開くには
どうしたのかっていうのを

ちょっと 見てまいりましたけれども
どうでしょう 最後に

いとうさんが考える
新しいジャンルを切り開く極意って…。

極意… そんなこと言える立場じゃ
ないですけど

ただ僕は 常々 考えてるというか
人見て 失敗してんなとかって思うのは

せっかく…

つまり これは ミステリーっていうか
新しい純文学なんじゃないの…

例えば そういうのがあったとしたら
その名前が いつか…

ジャンルって 批評家が付けるんですよね。
「第三の世代」とか「内向の世代」とか。

日本でも文学のある派閥を
いろいろ言ったけど

自分から言ってるわけじゃないんですよ。
批評家が言ってんですよ。

だから もう…

最初の一歩が なかなか こう
勇気が持てないというか

失敗したらどうしようとか
そういう思いが先に来ちゃいますね。

でも もう 小芝居アナっていうね
新しいジャンルを…。

確かに 一歩 踏み出したことで…。
でしょ?

小芝居ばっかりやるアナウンサーで
小芝居アナっていうんですけど。

命名して頂いて…。
そうでしょ?

人から やっぱり言われた方が

「ああ なるほど。 小芝居アナか」みたいな。
言われたことなかったけど…。

新しいジャンルが…。
確立されましたね。

やめるわけにいかないですね。
(笑い声)

命懸けでやって下さい。


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